ペンギンですが、関税に反対します
2025-04-06アメリカ大統領であるドナルド・トランプが、ペンギンの住む無人島へ10%の関税をかけた。その後、私のLINEの友人が一人消え、代わりにペンギンという名前のユーザーが表示された。 私はあなたはペンギンなのかとそれに尋ねた。ペンギンはそうだと答え、以下のような文章を送ってきた。
ペンギンです。滑稽さを感じていただいてもかまいません。というのも、通常、挨拶とは種名ではなく固有名から始まるからです。
もちろん、皆さんが名前を持つように、私も名前を持ちます。しかし、私はここでこの小さな島に住むペンギンの代表ペンギンとして、個ペン的な背景を離れて伝えているのです。このようなとき、名前はむしろ不純物として機能します(多くの人間たちがその不純物を人生と名付けるのは知っていますが)。
私はペンギンです。そして関税には反対です。
人類が我々に対して課している関税について、滑稽さを感じているのは認識しています。そして、それは理解できることだし、ひとえに我々の責任だと思っています。なぜなら、我々はこれまで、人類――アメリカを含む203の国々――と我々がどのような交易を行ってきたかを開示してこなかったためです。
ですから、私は我々の通商を説明することにします。我々は人類が作れないものを提供しています。そして、それは経済的な規模としては極めて小さいです。 ですから、人類もその貿易に関税を付与する意味がないことを理解していただけるはずです(ペンギンの理解では、関税とは国内産業の保護と国家の収益を目的としたものです)。
我々の産業はペンギンの輸出です。
あなたは日本人ですから、卑近な例を――失礼しました。謙譲語はペンギンの 意味論 には存在しないので――取り上げます。大阪の海遊館に足を運んでいただきたい。
海遊館には南極の生き物という展示があり、その近くには、それら南極の生き物をどのように海遊館まで運んだかが写真付きで描かれています。そこでは深海に住む生き物やカニやカニ類似物の運搬が描かれています。
その展示で、ペンギンの運搬については描かれていないことを疑問に思わなかったでしょうか。実際、ジェンツーペンギンであれアデリーペンギンであれ、それらの実際の運搬風景をワンショットで撮った動画は存在しないと断言できます。 より詳細には、漁船の貨物室にペンギンを入れる風景はこれまで撮られてこなかったことを、かなりの確信を持って述べることができます。 日本においては、動物商が動物園に動物を搬送する際、政府へ手続きの管理記録を送りますが、その歴史もタンカーに積まれたペンギンの写真から始まります。ではそれらのペンギンは、誰が世界各国に運び込んだのでしょう?
彼らは我々が運びました。正確には、我々は彼らを鹵獲し、皆様のタンカーに乗せる業務に従事しています。このサービスは、安価で、これまで遅滞や欠品はなく、どのペンギンも健康かつ意欲的で、そして何より口答えをしなかったはずです。
このペンギン輸送サービスは我々のみが提供するサービスです。 確かに、人類における再生医療は進歩し、生命科学もまた長足の発展を遂げることはペンギンの耳(正確には脚びれ)にも届いています。また、古代に絶滅したゾウをよみがえらせるプロジェクトが進行しているのも知っています。
とはいえ、まだ人類はコウテイペンギンやオウサマペンギンを健康な状態で引き連れることはできません。
また、この取引価格はおおよそ年にイワシを数トンといったところで(為替による変動を受ける)、人類の経済規模に類比できるようなものではありません。今回は謙譲語をうまく使えたでしょうか。
念のために言いますが、ペンギンの輸出について、我々は道徳的なハードルを感じてはいません。 ちょうど人類がボノボやオランウータンに『霊長類の権利』を与えることに積極的になれず、同胞意識を持たないように、我々も彼らに対してそれほどの憐情は起こりません。 第一、彼らに、ある種の諧謔をもって皇帝や王様と名付けたのは私たちなのです。どうして、その種に属するすべての生命が同時に皇帝たり得るのでしょう? それは僭称者たちの群れではないですか?
ご紹介が遅れましたが、我々は人類がハード島およびマクドナルド島と呼ぶ場所の結節点の地下深くに住むペンギンです。未だ、我々は種として記載されていませんし、今後もされることはないでしょう。 ただし、我々は――人類がそうあるように――我々の足跡をたどったことがあるので、皆さんが系統樹と呼ぶもののどこに我々が位置するのかを十分に知っています。陸上の生物については遠く及びませんが、海については我々の方が膨大なデータを蓄えています。
――いえ、いましたといった方が正確でしょう。我々は遙か昔、すべての文明をプレートの谷間に起き、すべての文明の軽い水と黒い油を地中に埋め、そしてすべての透明なリザーバー計算機を海中に放擲し、この島でペンギンを売って暮らすことに決めたからです。それはとても長い話です。おそらくは、我々のクロニクルを岩に刻むことは、この嘆願書では書き尽くすことはできないでしょう。我々は皆さんがその文明の残滓をくみ上げ、そしてクラゲたちが――彼らに適切なパターンとリードアウトが与えられないことは残念です――ただよっているのを眺めています。
なぜ、ドナルドトランプ大統領陛下が我々に10%の関税をかけようとしているかは、わかりません。 歴史を通じて、我々はこのような散発的な抑圧に度々あってきました。 最も近い例はペンギンを蒸す機械であり、おそらく最も古いのはトカゲたちが隕石の軌道を修正し、我々の居住地へ誘導したものでしょう。
我々はペンギンの輸出以外に、ほとんど経済活動を行っていません。 人間界への干渉もありません。年に数人、豆腐のような船に乗った亡命者を受け入れているだけです。 我々は穏健な存在です。人類の先達として多少の助言やゴム製の人形を送付することはあれど、静かに暮らしています。イワシを食べ、温泉に入り、そして歌を歌って過ごしています。
皆さん、我々は皆さんから何も奪ったりしません。 我々は皆さんの目につく場所に出てきたりしません。 ですから、我々への関税を即刻撤廃してください。 この静かな 深い場所 をそっとしておいてほしいのです。
ペンギンに対して、私は、なんとかする、と伝えた。そしてMETI(経済産業省)で働いている数人の友人に直接電話をして、ペンギンの訴えたことを手短に言った。 ディープステートを守ってやる必要があるんだと言った。 彼らはわかったと言って電話を切った。
しばらくして、ペンギンが消え、また友人が現れた。 土曜日だったから彼をコーヒーに誘った。 横浜駅のタリーズに現れた彼は元気そうだった。
私たちは天気の話をした。その後、私が事の次第を話すと、彼は笑った。あれは冗談だよと言った。 ふざけてペンギンのまねをしていたんだと告げた。お前以外誰も構ってくれなかったからすぐやめたけど。私はそれを事実として受け止めた。
それから、ペンギンを蒸す機械について私は彼に尋ねた。あれは本当にひどい機械だなと言った。 テーブルにはフォークが置かれていた。彼は首肯した。本当にひどい機械だ。
そしてもっとひどいことになった。