友人の結婚式に行くと死にたくなる

さきほど結婚式に行った。もちろん嘘で、実際は先週の土曜に行っている。この文章は帰りの横須賀線で書いている。ずっと同レベだと思っていた知人が人生のステップを進めたので焦ってブログに現実逃避している? 殺すぞお前。


いつも疑問が生じる。生きるという意欲に科学的な根拠があるのだろうか?

(『痛み――そのメカニズムとマネジメント』, p292, Rene Cailliet著 萩島秀男訳,1994, 医歯薬出版株式会社)


結婚式はつつがなく進んでいた。料理は素晴らしく、スライドショー(『二人の軌跡~Wedding piece~』)も適切な長さにまとまっていた。友人の手紙は笑うべき箇所を正確に指定していたし、どこか計画されていたような滑稽なハプニングもあった。全てが基礎基本に忠実に進行していた。要約すれば、おおむね欠点のない結婚式だった。より一般に、この友人は非の打ち所がなかった。

ただ、司会のおばさんがひどかった。彼女は10年前のバラエティ番組から抜け出してきたようだった。彼女の発言の一部をリスト化しておく。

私は嘘をついていない(私はサービスを呼んでメモとペンを持ってこさせていた)。

彼女は痩せた、化粧の厚い女性で、もはや現代では受け入れられないようなことを次々と述べた。お色直しの最中ですが、きっとお二人は二人だけの誓いのキスをされていると思います。玲子さんの青いドレス、大きな笑顔を、みなさん、見てください。素敵ですね。男性の皆様、あまり見すぎちゃだめですよ。

私は円卓を囲んでいる隣の男に話しかけて、司会者の女性はほとんど社会規範を逸脱している、と言った。彼も同意した。しかし、彼はこの手の残酷さに慣れているようだった。あのおばさん、いきなり死なないかな、と私はぼんやり考えていた。帰ったら学マスとやらをスマホとやらにインストールして篠澤広とやらでオナニーとやらでもするかとも考えていた。

My disappointment is immeasurable, and my day is ruined. (私の失望は計り知れず、今日という日は損なわれた)

(Popeyes Cheddar Biscuit Butterfly Shrimp - Food Review, theReportOfTheWeek)


隣に座った男とは大学が同じだった。我々は自分たちの大学を一通り中傷して(これは礼儀作法だ)、エリートの拝金主義について少し議論をした。しばらくして、司会の女性が、みなさんごめんなさい、楽しい時間はすぐに過ぎちゃいますねと言って我々を追い出した。彼はもう少し話そうと私に持ち掛けた。我々は夕暮れを二人で歩いた。大麻や安楽死のことについて話した。ゲームのように立場を代えながら。

結婚式は舞浜のどこかにあるホテルで執り行われていたから、我々はディズニーランドだかディズニーシーだかディズニーヘルだかの裏側を歩くことになった。鉄板が敷かれていて、仮設トイレがいくつかおいてあった。土曜の夜にディズニーの工事をしたいやつはいないみたいだった。ここでミッキーがグーフィーをぶち殺してもミニーは気がつかないだろう。

モノレールが静かに頭上を通っていた。モノレールの窓ガラスの向こうで、子供が我々に手を振っていた。おそらくあの子供は幸せなんだろうと私は言った。彼はどうとも答えなかった。

舞浜駅は混んでいた。駅のホームには何かのドラマの宣伝が貼られていた。一秒目から誰かが泣いているかマジギレしているようなドラマで、タイトルが右上に引っ張られた手書き風のフォントで書かれていた。感情は安っぽく誇張されていたが、それはもうここ1500年くらいずっと続いてきたことだったし、不都合なことでもなかった。というのも、もし全ての感情がデフォルトとしてクソでかになれば、感情を我々が読み取ることは容易になるからだ(より好ましいのは、もはや心が問題にはならなくなることで、これもまた十分にありそうだった)。


大鳥の羽易の山に私の恋する妻がいると人が言うから、岩木を踏み分けてここまで来たのに、そのかいも全くない、この世の人だと思っていた妻が、ぼんやりとも見えないことを思うと。

柿本人麻呂 万葉集


会社の上司と昼食をとっていたら、彼は5歳と7歳の子供たちをディズニーランドにはまだ連れていかないのだと言った。最初は近くの公園に連れていき、次は市で一番大きい運動公園に連れて行って、地元の遊園地に行って……それが刺激に慣れる順番なんだと言った。私はそうですかと言った。私は「そうですか」以外のことを会社ではほとんど言わない。キャリアパスにはいつも『バートルビー』と書いて提出している。

……より一般に、物事に順序があるという考え方は二つの意味で優れている。一つには、歩む順番があり、それを歩んでいけばいいということ。二つには、もし道を踏み外したら、それは順序を守らなかったことに原因を求められるという点だ。私は自分の子供のときのことを思い出した。いつかの慰めのために、守ることができなかった順序をいくつか選んだ。


彼は改札で立ち止まって、あの司会の女性に会いに行かないかと言った。私はしばらく考えて、別に構わないと言った。我々はほんの少しお互いの瞳を見て、それからそらした。コンビニに入って、滑り止め付きの手袋と布テープを買った。それからモノレールの改札に向かった。プラットフォームにはホームドアがついていた。それは少し残念なことだった。我々は単純にどんどん死ににくくなっている。

カップルたちがシートに座っていたが、誰もキスはしていなかった。しつけの行き届いた猿だと私は思ったが言わなかった。窓ガラスはミッキーの形にくりぬかれていて、それが人々の脈拍を安定させる。もしそれが安定的に観測されるなら、 便宜上の化学物質 ( ミッキオイド ) をこしらえて科学にすればいい。モノレールは計画通りに運行していて、我々を着くべき場所に着かせた。

ホテルのソファでしばらく時間をつぶしていた。彼が立ち上がって、きちんとスーツのボタンを留めてから歩き出した。司会者の女性がちょうど出てきたところだった。彼女は誰もいない空間に笑顔を振りまいていた。それは私に人間一般を思い起こさせた。


彼は丁寧にあいさつをして、いきなり呼び止めたことを謝った。それから、司会のスムースさが非常に 印象的 ( インプレッシヴ ) で、 洗練された ( ソフィスティケート ) された感じを受けたというようなことを言った。もしよければ、舞浜駅までの間でもよいので、仕事についてお伺いしたいのだが……。彼は名刺を取り出して渡した。我々は結婚式用のばかみたいな銀色のネクタイを締めて、腕にはこれまたばかみたいなカフスをつけていて、髪型もばかみたいな感じだった。そして我々は全体的にばかっぽい笑みを浮かべていた。

司会の女性は少し戸惑ったように見えたが、我々は彼女に歩くように促した。そして、この司会業を始めてどのくらいになるのかとか、のどを使うのは大変だろうとか、そういう「七年」とか「はい」とか、簡単に答えられることを聞いた。金銭の話やプライベートの話は注意深く避けた。彼女の左手を確認して、そこに何も光るものがないことを確認した。

五月の夜は涼しかった。質問を少しずつ広げていくと、女性はなんとなく機嫌よさそうに、いろいろなことを教えてくれた。酔っぱらった主賓がスーツを脱いで暴れた時の話。赤いヴィッツのアッシー君を使って千葉の現場から神奈川のホテルまで行った時の話。それはブラウン管に映るざらざらとした映像のように、どれもそれだけで少し滑稽だった。我々は笑った。彼女も間違えた順序を選んだことがあるのだろうかと私は思った。

隣を車が通り過ぎていった。彼は危ないですよと言って、女性の腰をぞんざいにつかんだ。彼は手を腰に回したままで、 成熟した ( マチュアー ) な女性がどうのと言った。そして我々は彼女を仮設トイレの裏手に連れて行った。


彼はまず手袋をつけて、何回か殴りつけた。私は彼女の口を布テープでふさいで、彼女が問題なく呼吸ができるように調整した。それから、興奮すると呼吸が苦しくなるからやめた方がいいと告げた。それでも何か動いていたので、彼がもう少し殴りつけた。

私は彼にメモを渡した。彼はそのメモを読み上げて、こういう言い方はよくない、という内容のことを言った。彼女は全く分からないというような顔をした。殴ることと喋ることがしばらく繰り返されて(私は殴り方にも巧拙があると知った)、女性はようやく何か理解したという風にぐったりとした。我々は布テープを外して、彼女の住所をメモした。それから、手荒なことをしてすまないと言って、銀行から余計に降ろしていた分のピン札を何枚か置いて、その場を後にした。彼は途中で引き返して、自分の名刺を取り戻してきた。本物を渡していたのかと私は聞いた。こういうことをするのは初めだったと彼は答えた。

彼は東京駅で新幹線に乗り換えた。新横浜に住んでいるのだと言った。1300円払えば20分で帰れるようだった。私は新幹線が思ったより安くて驚いた。別れ際に、あれはたぶん痛かったんだろうなと私は言った。彼は短く頷いた。

戸塚駅の東口から出て柏尾川沿いを歩いた。セブンイレブンに入って麦茶を買った。駐車場には神奈川のバカみたいなヤンキーが何人か地べたに座り込んでいた。全員が髪の毛が金色に染めていて、ピチピチのキモいジーンズをはいていた。彼らは私のことを見た。私はなんとなく彼らを何秒か見返した。何見てんだよと彼らは言って立ち上がった。私は特に動かなかった。