一本の細い紐が配属されてきたらあなたはどうマネジメントする
2026-01-12これは本当にある話で、メタファーではない。
上司が精神的に体調を崩す。長い休職期間と短い復職期間を寝付けない夜っぽく繰り返して、彼は平均的な部分に落ち着いた。 要するに家から出たまま帰ってこなくなった。これは残念な話だが、泣くようなことではない。人は誰だっていつかはそうなる。 何人かはそれが早く、何人かはそれが遅い。何人かは何人かに悔やまれて、何人かは誰にも悔やまれない。 とはいえ、それらは人新世の地層ではほとんど見分けがつかない隙間に押し込まれる。 もっとも、地層に残る名誉のチケットはすでにすべて分配済みだということももっともらしく聞こえる。500年もたたないうちに人類は殺し合って灰も残さずに絶滅するだろう。 まあいい。死の話はいつも何かを言ったことになってしまうから好きではない。
そして我々が暫定的にマネージャーの仕事をさせられることになる。 なぜか;マネージャーのポジションが空位だと、ConcurだかWorkforceだかのワークフローの承認者がいなくなり、社内の承認プロセスが進まなくなるからだ。 つまり、社員の有給取得ができなくなり、会社が労働基準法に抵触しかねないため、社員には上司が必要になる。これは重要なことだ。
ヘッドだけが使えるキモい部屋で我々はぼんやりと元上司のさらに上司の話を聞く。 部屋に置いてある観葉植物がプラスチック製だということに気がつくのだが、一つコメントをするなら、もしかしたらすぐにそちらのほうがもっと本物になるかもしれない。ちょうどすべての言葉がそうなりつつあるように。もはや嘘ですらない合成された言葉が今日も増えていく。
上司の上司は深刻そうな顔で、君にしかできないとか、我々が『卓越したマネジメント力を発揮した』シーンを列挙するのだが、明らかに我々の誰かを別のアジア人と間違えている。というか、彼はそのエピソードを信じ込もうとする。きっとこの話が終わったらさっさと仕事を切り上げてジムにでも行くのだろう(グラビアアイドルがそうであるように、彼の腕は無意味にはちきれそうだった)。
まあいい。人は信じたいものを信じる。ここでは、自分のマネジメント力に自信がなく、と適当な前置きをしてから、人事について2つのことを注文するべきだ。
- 元上司の井上を追い詰めた赤池とかいうカスと同じ空気を吸うのは耐えられない。
- 殺すか別の部署に移すかしろ
- さもなくば私がこの手で殺す
- 喜んでだ
- さもなくば私がこの手で殺す
- 殺すか別の部署に移すかしろ
- いきなり人を増やすな
- ダンパー数ってのがあるんだよ
- ここで腕の太い上司は「MBTIってのを使えばすぐに人となりがわかるんじゃないか」とふざけたことを抜かす。
- じゃあICBM(インター・コンチネンタル・バリスティック・ミサイル、大陸間弾道ミサイルの意)が来たらどうするんだ、と私は返答する。
- 彼は答えないことを選んだ。
- 東京大学の卒業生は頭が悪い!
- 彼は答えないことを選んだ。
しかしね、とホワイトニングした歯をきらっと光らせて上司はおちゃめに笑う。明日から新人が来るんだよ。私はその人(they)の経歴書と職務記述書を要求した。上司は「それは一本の細い紐なんだ」と答えた。そして彼の携帯が震えて、彼はおそらくジムに行った。
要するに、我々は一本の細い紐を迎え入れることになった。考えることは多い。しかし、ここでマネジメントの重要なことを思い出そう。
マネジメントの第一:視野狭窄にならないこと
プレイヤーとして能力が高かった労働者がマネジメントになったときに起こりがちなことがある。それは、仕事の細部について最適な戦略を自分で考え、部下を単なる作業者にしてしまうという悪癖だ。 特に、チームに属する他のメンバーのことをよく知っていればいるほど、「こいつが考えるよりも俺のほうがいい仕事ができる」と、手法や実装のレベルまで落とし込んで考えてしまう。
このマネジメント方法は2つの意味で非効率的である。
- マネージャーのみが持つ高レベルの意思決定をする時間が、他の人によっても代替可能な詳細の設計によって奪われている
- ラインの下の従業員を(労働者としては最も低級である)単なる作業者に貶めている
- なんかうざい
- MBAだかなんだか知らねえけどバスケットボールが強いのがそんなに偉いのかよ
なぜ箇条書きにしてあるかというと、参考のために武蔵小杉の図書館で借りてきたビジネス本が無意味に箇条書きだからである。
なんにせよ、視野狭窄になるべきではない。そのためには緊張をほぐすのが大事だ。家に帰ってFANZAで購入した『県立商業科 軽量スレンダーGAL あめchan 01』というポルノで抜くのもいいだろう。 紐だ……。まあすごい抜ける。自分の生命力にびっくりするくらいだ。そして悪夢が今夜もやってくる。ときおり、キリスト教徒でなかったことに本当に感謝してもいいだろう。もしずば抜けたキリスト教徒だったら、ポルノと罪悪の結びつきはほとんど自明であり(旧約聖書を見よ)、ガチガチの鞭身派になっていたところだ。
朝七時に二階のヒューマンリソースの部屋に行くと、事務の女性(事務員はもちろん女性だ!)が愛想よく(事務員はいつも愛想がいい!)受け入れてくれた(事務員は絶対に受け入れてくれる!)。そして白いマニラファイルを手渡す。このウィンドウズのフォルダっぽい封筒に、と彼女が教えてくれる。新入社員が入ってますからね。
「面接はしたんですか?」と聞くと、彼女は相変わらずの笑顔で「もちろん」と答えてくれる。マニラファイルの中には確かに白い紐が入っている。まだほとんど人が来ていない地下のフロアに安住の地を見つける。
紐を出してみる。それはタコ糸をさらに数十本くらい結わえたしっかりした紐だ。漂白のまだされていない、穏やかな色をしていた。それはあめchanに似ていなくもなかったから、見ようによってはエロくも思えるはずだ。しかし、社員で抜いたら懲戒解雇だからそれはできなかった。紐は私が両手を広げて少し余るくらいだったから、たぶん2メートルの紐なのだろう。
2メートルの紐だ、と声に出してみよう。横を通りかかった黒い服の女性が「2メートルですか?」と尋ねて、すぐに彼女のバッグからメジャーを取り出してきた(彼女はいつもバッグを持ち歩いている。そのバッグにはあらゆる物がごちゃまぜに入っていて、本当にあらゆる物が渾然と名前がつけられる前の状態で存在するから、たまに誰かがバッグの中身を覗いてしまって彼らの精神が修復不可能なレベルに損壊する)。そして「確かに2メートルです」と私に事実を告げてくれる。そして自分の横に糸を垂らして、「私と同じです」と告げる。微妙な間がある。彼女の瞳には白目がない。彼女が薄く笑って去っていく。腕のアップルウォッチが「激しいワークアウト!」と心拍数を教えてくれる。
ひたすら画面の『承認要求』をクリックしていると、朝の15分ミーティングが始まる。赤池はきちんと別の部署に行っていた。自分が暫定的な管理職になったことをあなたは告げる。マネージャーとして皆さんのことが知りたいから、1on1を三〇分設定してくれとあなたは頼む。チームの伊藤が「今日から新人が来ると聞いたが」と言う。あなたはそうだと答える。
マネジメントの第二:役職の格差がないところに情報の格差を作らない
古代ローマの統治方法はいくつもあるが、その中でもプログラミングを学ぶ者にとって有名なのは分割統治である。彼らは彼らの植民地において、非統治民たちの間に区分を見つけ、異なる階級を異なるように扱った。その区分はすでに存在するものでもよかったが、ポストモダンがそう言って去っていったように、区分というのは人為的に作成することもできた。
そうすることで、植民地の土着の民たちは反目しあい、1つにまとまって統治者へ反乱することなど考えられなくなった。このようにしていくつかの帝国は長きに渡る繁栄を -- 誰かにとっての繁栄を -- 楽しんだというわけだ。
しかし、統治者たちが最も避けたかったのは支配の転覆であることを忘れてはいけない。民間企業のマネージャーは支配の転覆に怯える必要はないから、 これは民間企業のマネージャーが行うべきことではない。むしろ、生産性の最大化のためには、あなたは分割統治をするべきではない。 例えば、別の人間から同一の質問が来ることを絶対に避けなければいけない。
だから、役職の格差がないところに情報の格差を作ってはいけない。情報の格差は徹底的に取り除くべきだ。そして、知ることのできる情報はすべて再現可能な形で、最大限与えるべきだ。
あなたは伊藤に感謝して(これについては後述)、そのとおりだと肯定する。
- 今日から新しいメンバーがジョインすることになった
- 私も昨日このことについて知らされているから、まだ情報が流動的なことに注意してほしい
- ここにいるので、みなさんも挨拶をしてほしい
- 可能なら今週中に、遅くとも来週の金曜日までには必ず30分の1on1を設定するように
- 終わったら私に要約を送るように
- これがその社員だ
そしてあなたは紐を紹介する。テーブルにその紐をそっと置く。紐は恥ずかしがっているように見えて性的だ。 三年目の高川という労働組合の活動に熱心な女性が口を挟む。ちょっと待ってください。無理ですよ。こんなのほとんど紐じゃないですか。
マネジメントの第三:自尊心を傷つけない
ここ数年で最も重要視されている物事のうちの1つが、心理的安全性である。アメリカの会社ではこれが極めて重要視されていて、水道水に精神安定剤や向精神薬、その他心理的な安全性を確保するいろいろな薬が入っていることもあるくらいだ。ところで人肉食は精神にいい。 私達の秘密は私達の人民です 。
しかし、心理的安全性と甘やかしを混同してはいけない。また、心理的安全性は批判が発生しないということでもない。心理的に安全であるとは、職場で何があろうとも、自分自信の自尊心が守られることを、一人ひとりが確信できているという状態である。 悪いアイディアを出せば、それは当然批判される。しかし、それは単に、1. 人は悪いアイディアを出すことがあり、2. 悪いアイディアが批判される という2つのほぼ自明な性質から演繹されるものに過ぎない。その人の能力に関係なく、とにかくそういうものだ。
このような心理的安全性を守るため最も重要なのが、ジョインしてきたメンバーにその文化をきちんと伝えることだ。つまり、
- 人格に対する否定を行わない
- 常に あなたを気にかけている というメッセージを明確に打ち出す
- まずいことが起こっていたら、すぐに修正する
という点だ。あなたは入社三年目の労働組合の活動に熱心な女性が話し終わるのを待ってから、さっきの発言はジョインしてきたメンバーに対する最初の発言としては妥当なものではないと断定的に告げる。
- なぜですか? 正しいことを言ってはいけないんですか?
- その発言の妥当性はともかく、あなたの発言はジョインしてきたメンバーを萎縮させるし、そのような行動は他のメンバーの心理的安全性を損なう
- ちょっと変なことを言わないでくださいよ
- 高川さん、あなたはブリリアントジャークですか?
- あなたはなんて言いましたか
- あなたはブリリアントジャークです
- というのも能力が高くて他人を萎縮させているので
- いいえ、私はブリリアントジャークではありません
- では無能ということですか?
- ええ?
そしてあなたは朝のミーティングを終了する。
マネジメントの第四:いちいち質問せずに行動する
プレイヤーがマネージャーに昇格したときに、リセットするべきメンタリティは、上司を驚かしてはいけないというものだ。 多くの場合、プレイヤーとしての立場では、上司に対して次のことを確認しながら仕事をするはずだ。
- 用語の定義と背景知識
- 現在の状況と問題点
- あなたが実行したい作業
- その作業によって得られる価値とその推論の妥当性
- トータルでかかる作業の時間見積もり
しかし、マネージャーとして、あなたは逆側のアプローチをとってはいけない。つまり、あなたは「アッパーマネジメントにこれこれこういうことを確認するが、良いか」という了承をチームメンバーから取るべきではないし、 また、より上のマネジメントに対してもこれまで通りの承認プロセスを回してはいけない。
むしろ、あなたがやるべきなのは、マネージャーとして、プレイヤーの生産したものを最短で価値につなげる行動である。それは例えば他部署との連携だったり、些細な予算の執行判断かもしれない。 なんにせよ、承認をもらってからその範囲で行動するよりも、まず行動してからその後で許可を懇願するほうがスピード感を持った業務が実行できる。
今の所の問題は2つである。
- 伊藤が知らなくてもいいことを知っている
- 情報格差を取り除く方法は以下のように3つある
- すべてを最も低いレベルに合わせる
- すべてを最も高いレベルに合わせる
- 特定のレベルを決定し、そのレベルに一致しないものをすべて取り除く
- 情報格差を取り除く方法は以下のように3つある
- 労働組合の活動に熱心な女性がブリリアントジャークないしは無能である
あなたは伊藤との1on1をまず設定し、その次に後者との1on1を設定する。
あなたは伊藤を部屋に招き入れる。会議室のドアは分厚く、窓はどこにもない。ついでに言えば、この会議室は社内で監視カメラが存在しないことで有名な部屋のうちの1つだった。
あなたは部屋のドアのシリンダー錠を下ろす。伊藤が怪訝そうな顔であなたの方を見る。あなたは素知らぬふりで「パワーポイントを設定しますね」と伊藤の背後に回り込む。そしてあなたの両手には新入社員がきつく握られていて、すぐにそれが伊藤の首にも巻き付き、要するに私達三人は仲良く肩を組んでそのまま15分ほど一緒に居た。
次に労働組合の活動に熱心な女性がやってくる。彼女は絞殺死体を見つけて息を飲むのだが、それはなんというか教科書どおりみたいで本当に頭にきた。しかし、マネージャーの大事なこと: 視野狭窄にならない。あなたは彼女の目をまっすぐに見て(こうすると人は大きい声をいきなり出せなくなるので)紐を喉に巻きつける。
私は2つの絞殺死体を前にして謝罪の言葉を述べる。許可を求めるよりも赦しを求めるほうがいいからだ。
改めて言っておくが、古代の統治者たちが避けたかったのは支配の転覆であることを忘れてはいけない。
そして紐は仕事を始める。まず、あなたは五年目の中堅社員をOJTにアサインした。 最初は試用期間だから、紐には最低限のアウトプットを求めて、むしろ能力的な適性があるかを評価しようとしている、とあなたはチームメンバーに伝えている。 他のグループにもこの話は伝わったようで、たまに誰かがあなたに話しかけてくる。何人かはその写真を撮ったり、社内報に回したりしていた。
正直言って、紐にタスクがこなせるか、私には不安だった。第一、それは完全に紐だったからだ。しかし、予想を裏切って、OJTは「紐は大変良く仕事をしてくれる」と私に伝えてきた。
- しかし、それは紐なんだよね
- ええ、だから六時間の労働時間ごとに一時間の休憩を取っていただくのが大変です
- そう言って、彼は金属のハンガーで作った『紐掛け』を私に見せてくれた。
- その『紐掛け』にかけられた紐は確かに休んでいるように見えたから私はそれを見てよしとした
- アウトプットには間違いがあると思うけど、確認しましたか?
- はい、しました。いくつか、些細な間違いがありましたけど、正直に言えば、それは我々の社内基準が一般の基準からドリフトしているといったほうが妥当と言えるものでした
あなたはOJTの評価メモに良い評価を残してフィードバックを終える。まだ私達は確信できていない。マネージャーに与えられている仕切りのあるキューブから出て、フリーアドレスの席で仕事をしてみる。
勤怠管理システムが表示する場所に、たしかに紐は座っていた。椅子ではなく机に紐は座っていた。それは社会人のマナーとしては間違っているが、この程度の多様性は見逃すべきだった。彼(紐)のパソコンは確かに起動していて、パワーポイントやらワードやらVSCodeやらが開かれていたが、当然、紐は何もしていなかった。二時間が経ったが、紐は全く動かなかった。マネジメントにおいて重要なこと:時間の貴重性を知る。
あなたはキューブに戻る。紐がプルリクエストを送ってきているのがチャット欄に見えた。開いてみると、たしかに紐が丁寧なコメントと仕様とともにコードを書き直していた。それはI/O部分の抽象化を実装したコードで、たしかにテストを小さいサイクルで回していくには必要なのだが作っていない部分だった。ざっと見てもコードにおかしい部分は見つからなかった。
紐の活動は目覚ましかった。試用期間が終わって正式採用されても、彼のヴェロシティは高くチームは高いモーメントを持ってサービスをローンチしてリライヤビリティチームとオブザーバブルなデブオップスをサステイナブルにメインテインできていた。広報チームがやってきて、紐の写真を撮ってXに投稿した。すごくバズった。プルリクエストのドキュメントがやや独特(『長いものにはまかれろ』とか『帯に短したすきに長し』など、紐っぽい言葉が多い)なのもウケた。社長が「我が社は紐でも活躍できます」という独特のコメンタリーを作って、それもシュールだと評判になった。
マネジメント成功。
ある日、少し風邪をこじらせてしまう。最初はどうでもいいと思って、リモートワークをしていた(マネジメントの重要なこと:リモートワークでも回るようにせよ)のだが、坂を転がるように体調が悪くなった。ひどい頭痛と歩けないほどのめまいがやってきて、私はついに救急車を自宅に呼ぶ。すぐに入院が決まるが、病名だけは残酷に決まらない。スマートフォンは病室に持ち込めたが、ラップトップを開けない日が数日続く。悪寒とひどい熱が交互に繰り返す。汗で寝間着とシーツがぐっしょり濡れて、看護婦が身体を拭いてくれるタオルがずっしりと重くなる。点滴のバッグが何度も変えられる。時間の感覚が徐々に失われていって、まばたきの前後で同じ日の太陽を見ているか確信を持てなくなる。
誰かが病室に見舞いに来ていると主治医が告げる。家族との縁は切れているのだが、とあなたはかすれた声でいう。
- 会社の人らしいです
- そんなことはありません
- 会社は外資系企業なのでお見舞いなどはしないと思います
- 外資系企業だとなぜお見舞いをしないのですか
- (間)確かに今の発言はロジカルではありませんでした
- (すぐに)医学部じゃないのでしょうがないですよ
- なぜ医学部じゃないと許されるのですか
- 医学部じゃないとバカじゃないですか
主治医は優しそうに微笑んで病室を出る。しばらくして、ドアが四回ノックされる。それは多すぎるように感じる。ついたての向こうでドアが開く音がする。それはとても長く響く。クリーム色のスクリーンに大きな影が浮かんで、巨大な黒い服の女がゆっくり姿を表す。彼女はいつものように大きなバッグを左手に持っている。薄く笑みを浮かべながら私の方に近づいてくる。視線を私から外さないで椅子を引き寄せる。そして私の横に座る。彼女は真冬なのにオフィスと同じ服装をしていた。彼女はその服装で外を歩いてきたということだ。
「あなたが会社のサービスにログインしなくなって9日経ちました。つまり、今は日曜日の夜です」と彼女は言う。有給申請をする時間がなくて、と私は伝える。しかし、主治医が会社に連絡を取ると言っていたはずだった。そうではなくて、と彼女は彼女のバッグを開けた。私は強い眠気を感じる。彼女はゆっくりとバッグから紐を手繰り上げる。恐怖を感じないのだが、恐怖を感じるべきではないのだからそれも不思議だった。
「私がいないことで業務が滞っていたらすみません」
いえ、と長身の女性は否定した。あなたが居ない間の決済は滞りなく進んでいますし、チームのマネジメントも滞りなく行われています。私はシーツに手をついて半身を起こした。それはおかしいんじゃないのか、と私は尋ねた。少なくとも決裁を迂回するには別の特別承認者設定がいるし、その承認を私以外の人が決裁しようとすると、月に一回しかない部長クラスの稟議をする必要があるはずだ、と指摘した。それに、チームのタスク管理もオープンになってはいるが……。
そうではないです、と彼女がいうと、紐がゆっくりと彼女の手のひらを這い出した。そして、ぽとりと彼女の手のひらをこぼれて、すぐに私のベッドの上に上がってくる。身体をくねらせるのではなくて、まるで線を引くように喉元に上がってくる。この紐があなたの決裁を代わりに行っています。実際はクリックだけですし。また、タスク管理テーブルは早々に放擲されて、チームはよりオーガニックな形で回っているように見えます。要するに、全員が何をしているか知っていて、ほころびを見つけては手分けして修理をするように機能しているということです。
紐が首の後ろを通る。喉がきつく締められるのを感じる。1つだけ質問をしていいですよ、と女性は言う。彼女の名前を私は知らないし、彼女がいつからいるのかも知らない。なら、と私は聞く。マネージャーなんていらないんじゃないですか。
いえ、と私は否定される。なぜなら、マネージャーのポジションが空位だと、ConcurだかWorkforceだかのワークフローの承認者がいなくなり、社内の承認プロセスが進まなくなるからです。