熱海のホテルの屋上から空に歩を進め燐光を放つ全裸中年男性(『君たちはどう生きるか』レビュー)
(2023/07/30 第一稿)
上大岡のTOHOシネマズで『君たちはどう生きるか』を見た。それから戸塚に帰った。私は戸塚に住んでいる。全裸中年男性の町だ。駅を降りてから、自分が財布を忘れたことを思い出した。コインパーキングの前で私は立っていた。ポケットを探した。リュックの中を探した。蝉が近くの木で鳴いていた。自動販売機の下を探した。
銀行口座の預金もマイクロソフトの株も何にもならないことを悟った。恋人の死の前にたたずんで、彼女と遊んだトランプの束が、埃をかぶって窓際に置かれて夜に包まれてこのままカラスたちの慰みものになるトランプの札たちが(何枚かの札が抜けてしまっていて、はるか昔に使い物にならなくなっていたそのトランプが)もう使い物にならないのだと知った19世紀のロシアの侯爵のように。