日記

日記

ある種のスケール感覚というものが人間は先天的に備わっており、この観点から見ると、ノムは最低でも175cm程度の身長が必要である。 こと、#燦鳥ノムと一緒にお花見ができる現代においてはっあっ

ノムさあ……ちょっとさあ…



燦鳥ノム氏とその周囲のディレクターとアーティストに尋ねたいのだが、彼女は過度に性的な表象と分離され過ぎてはいないだろうか? エッチかい? あーエッチすぎる。これ駄目でしょ。だめだめ。あー。これちょっと……あーこれはエッチすぎる。いけません。エッチじゃないのがエッチすぎる。すごくいやらしい。


分かっているように、現代では性愛や情愛が極めて微に入り細を穿ち褒めたたえられている。愛があればいいじゃないか。今は愛の時代である。戦って勝ち取る愛。認めさせる愛。偶発的で止められない愛。それを掲げれば全員があなたに道をあける世界がいいじゃないか。愛のお通りだ。手に掲げた赤い旗を翻せばいい。どこまでもすすんでいければいい。

思うに、真の戦いとはそれらを手に入れるための戦いではなく、それに付随するその他の悪霊たちとの永遠に続く戦いだ。それに気がつかず、得たものを得たものとして享楽的に受け止めるものたちはまだ子供だ。レオンにおいて、レオンとマチルダが引き裂かれたのは、彼らが侵入してはいけないモラルの領域に踏み入れてしまったからではなく、戦いがやっと始まったことに気がつかなかったからだ。デラウラが放浪の旅に出て、シエルバ・マリアが減らない葡萄との戦いに勝ち死んだのは、彼らの愛が瀆神的だったからではなく、彼らの戦いがシエルバのつながれた牢獄で終わると勘違いしていたからだ。宇多田が常に愛を歌い、そして何度も間違えるのは、天才特有の自傷癖ではなく、彼女が果てしなく続くむなしい戦いの存在を知っているからだ。平たく言えば、その戦いとは老いを含む。それに気がつかない人々はまだ子供なのだ。

ところで、妄想によって作られた友人との関係というものは、一切このような悪霊を引き連れてこない。というのも、妄想によって作られたものというのは歳を取らず(『ビューティフル・マインド』)、個人主義の時代においてはモラルの向こう側にあり、そして彼/彼女らは決して裏切らないからだ。 この厳然たる差異は至る所で、妄想と現実の差を色濃く映し出していく。彼らの意思は常に通じて、彼らを引き離すことは誰にも出来ず、そして彼らには言葉すらいらない。

最後に言っておくが、はなはだ皮肉なことに、妄想上の恋人を持つ人々が耐えられないのは、彼らの恋人たちが悪霊たちをまったく持たないことだ。摩擦のない地面では走れないことは誰だって分かっている。

このように始まるブログは、もちろん日記ではない。

日記2.0

今となっては『コロナ』としか呼ばれていない『新型コロナウィルス』が流行してから、もう1年近くたつ。

もちろん、今日(2020/04/15)はまだ中国でウィルスが(何らかの意味で)確認されてから4ヶ月程度しかたっていないので、これは嘘なのだ。嘘なのはそれはそれで認めるとして、私は最近『闇面談』のバイトをしている。これは三月に内定が取り消された私が持っている唯一の資金源だ。雇用主とは顔を合わせていない。正直言って、それが人間なのかも私には分からない。

とにかく、私にはパクってきたヤマト宅急便のリヤカー付き自転車がある。そして雇用主は歩合制で給料を振り込んでくれる。私には-- もうずっと会えていないが --恋人もいる。糊口をしのぐことが出来れば十分だ。

恋人にラインでメッセージを送る。今日も仕事が入ったとか、今日は生姜焼きを作ったとか、エネルギー充填ばっちりとか、そういう類いの毒のないメッセージだ。すぐに返信が返ってくる。私はメッセージを覚えられるくらい読み直してから、深呼吸を二回した。

仕事は深夜に始まる。スマートフォンの電源を切る。誰にも見つからないようにドアを開ける。自転車のギアボックスにサラダ油を少し注す。自転車に乗る。静かにこぎ出す。音もなくリアカーが進む。町屋までたどり着く。路地裏に入る。ゴミ捨て場の隅に誰かが立っているのが分かる。彼は私を見つける。そして手を振りながら駆け寄ってくる。人と話せてうれしすぎるといった感じだ。ド素人だ。死ねばいい。

「ああ、待ってたんだ、急いで――」

「黙れブチ殺すぞ」

私はリアカーを止めて、彼のポケットをたたいた。スマートフォンが出てきた。電源を切る。Apple Watchを外させる。電源の切り方が分からなかったのでそばに捨てる。文句を言う前に殴りつける。黙れ。落とし物発見用のIoTタグが財布についている。ちぎり捨てる。彼に黒く染められたアルミの防護服をかぶせる。

彼を電気自転車にくくりつけられたリアカーに乗せる。一言でも声を出してみろ、ぶっ殺すぞ。私は注意深く自転車を踏む。大通りを避ける。コンビニの前を避ける。大きく迂回する。住宅街を音もなくこぐ。冷たい雨が降り始める。土の匂いがあたりを満たす。雨以外の音がなくなっていく。全てが死んだみたいに思える。ブレーキを踏む手がかじかむ。極度に緩く設定されたブレーキは、いくら握っても音を出さないがほとんど減速はしない。

監視を逃れて面会するにはこうする以外にない。政府のではなく、人々が自発的に繰り返す監視を。もし、中国のそれを、冷たく巨大で注意深くこっそりとあなたを見つめる目だとすると、今、私が避けているのは全く違う種類の目、熱と涙で潤み、混乱し、恐怖におびえ、発狂するためのきっかけを探している(一つ言っておくが、突き詰めてしまった人間にとって発狂とは救いだ)、血走った無数の目だ。ドストエフスキーも指摘していたが、近代以降、隷属とは自発的に自分の権利を託することを意味するようになった。そして現代においては、積極的に他人を縛り上げることを含意するようにもなった。

かなり時間をかけて王子神谷までたどり着いた。リヤカーの中では男が震えていた。出ろよ。私たちはフードを目深にかぶって地下鉄へ続く階段を降りた。そこには女が一人いた。私は男の肩をつかんで止めた。先に彼女にたどり着く。十分だからな。大きな声を出したら終わりだ。私は時計を押した。

男が階段を降りる。二人はハグをした。いくつか言葉を交わした。それから残りの時間、ずっとキスをしていた。馬鹿げていた。私は九分で大きく舌打ちをした。彼らは二人で階段を上がってきた。私を運んできた人はあっちにいるから、と女が言った。男は頷いた。最後に額を合わせてなにかつぶやいた。私は彼らを急かした。特に意味はなかった。男は私をにらんだ。

「そんなにうらやましいかよ」

「ぶっ殺すぞ」

彼女がじゃあね、と手を振った。わずかに彼女が咳き込んだ。男は私を見た。女も私を見た。私は何も言わなかった。アルミの防護服をしゃりっと鳴らして、男が私の肩をつかんだ。

「あれは問題ない方の咳だ」

間があった。雨はどんどん強くなっていった。私は目をそらした。自転車に戻った。顎で男に入れと促した。前のかごに入れていたスピリタスでうがいをした。喉が真っ赤に焼けた。私は死ね、と毒づいた。その間中ずっと、咳き込んだ女のことを考えていた。彼女の住所は知っていた。

町屋に戻って男を送り出した。さっきの咳は、と彼は言いかけた。触れるんじゃねえぞ、と私は言った。それ以上近寄ったらぶっ殺すぞ。

私は帰った。手を洗ってシャワーを浴びた。LINEで保健所とのトークを開いた。さっきの二人の住所と名前を打った。Botが「

===自動返信=====

ありがとうございます! 二名 のご報告を受け付けました。4/10日 午前 分の手続きとさせていただきます。

コロナ感染連絡ポイントのコードは 3892 となります。

今後とも、都内環境美化のための連絡にご協力ください。

===========」

と返信してきた。私は布団に入った。バイト先にやめるとメールを打った。私は彼女とのチャット欄を開いた。深夜の四時半だった。なんともないメッセージを打った。今日も最悪な仕事だったと伝えた。

彼女はいつもと全く同じように答えた。

まるで何も起きていないかのように、スカイツリーに登ったときの写真を送ってきた。彼女は底抜けに明るく、彼女とチャットをしていると心が癒やされた。私にはそのことが分かっていた。彼女のアイコンの右下に小さく ®厚生労働省と書いてあることも。毎週日曜日になると、定期的に彼女からの返信が遅れることも。私は彼女とのチャットを削除した。

その後、何もなくなってしまったラインの画面を見た。私の部屋には私の息づかいしか聞こえなくなっていた。私は布団にくるまった。二週間は部屋から出ないつもりだった。私がそれ以外のことをしないように私は祈っていた。しかし、私はいつまでも起きていた。私の目はいつまでも開いていた。