統計検定1級をクソみたいに入手する方法
2026-01-04統計検定1級をまっとうとは言えない方法で手に入れた。巷には多くの参考Webページが存在し、概ね正攻法が網羅されているのだから、私はよりくだらないことを書く。
はじめに
現代はすべてのものが効率化される。最適化、効率化、合理化――ただし、まずはっきりさせておきたいのだが、難しいのはこれらに逆らうことではない。 逆らうことくらい誰にだってできる。中坊だって逆らう。中坊は合理的な選択をくださないし、視聴覚室でクラスメイトの女子のブラを外すし(私の体験談)、蛍光灯を投げてくるし(これも私の体験談)、ハチャメチャなセックスをする(これは私の体験談ではない)。これらは合理化に逆らっているから、2008年ごろの山梨県の中坊は立派に日本現代思想および文学だったと言える。 もちろん私がここで批判しているのは日本現代思想の方だ。
現代文学がなんだっていうんだ。逆らうことを目的にする売文奴たち。逆らうのは難しくない。ビルの屋上から少し飛び出せばいいだけだ。電子レンジを捨てて、布の製品を買えばいいだけだ。性の開放を謳ったり丁寧な暮らしをしたりまた別のアイディアを抱え込んだり褒めそやしたり縫い繋いだりする。難しいのはそのままでいること。何も気にせずにいることだ。
話を戻す。おそらく読者の多くが統計検定をクソみたいな方法で手に入れたいと思っているだろう。だからその話をする。しかし、その前に、少し私の話を聞いてもらおう。
私は奇妙な会社に勤めている。朝6時30分くらいに会社について、おりがみやえほんを読んでいると帰る時刻になる。これは本当の話だ。リファラル採用もしていて、めでたく採用されると給茶機でだけ使えるポイントがジュース20杯分もらえる。給茶機には『濃いめ』というボタンがあって、設定上は濃いめの水やお湯まで入れることができる。最近ではクリスマスツリーの飾り付けもした(社則には政治活動及び宗教活動が禁じられているから、これは業務時間外の活動であったものの)。
そのような会社には何人か統計家がいて、彼らはいちいち癇に障ることを言う。彼らは実務者というよりむしろ批評家で、RもPythonもSASSすら使えないのに(業務委託の小人たちが7人体制でやるのだという)、なにか知ったような顔で我々のえほんを見てくる。彼らは白いシンプルなTシャツに紺色のジャケットを着ていて、いつも折り目の立った黒色のスラックスを着ている。頭髪にパーマをかけて、行ったコーヒー屋をエクセルだかで管理しては「好きなもの:コーヒー(グァテマラ)」とほざく。「統計検定をする前にサンプル数の妥当性を示せ」だと? 「効果量の見積もりを示せ」だと? 実際にはサンプルの入手可能性と予算がサンプル数を決める。もし地球の性質を統計検定するならばあと何個か太陽系が必要になるのだろう?
もうわかると思うが、私は彼らをよく殺している。現代社会において殺人が技術的に困難だというのは全く馬鹿げていて、死体の処理が手順として複雑であること、そして社会規範が遠隔作用(物理学者はこれを認めないのだが)をしていることが問題になっている。まあいい。何であれ会社から統計家が一人、また一人とまるでおもちゃの兵士のように消えていっている。上司は会社の冷凍庫によくわからない箱が増えて困るという。全くそのとおりだと私は頷く。統計家がいないのは少し寂しいと私は言う。上司は「彼らは 統計検定1級を持っているんだ」と言う。それは すごく難しい試験なんだぞと続ける。
そうは思いませんけど、と私は返す。だって見てくださいよ、上田さんとか美容室に行ってゆるいパーマをかけてるんですよ。バカが。ゆるいパーマをかけてるやつが取れる試験なんてノー勉でもいけます。はっきり言えば。
本当にできるのかと彼は言う。もちろんだと私は言う。だって私はいい大学出てるし理容室でスキンヘッドにしているから。なめんじゃねえよ。眼鏡のくせに調子に乗るな。殴るぞ。バカが。地元なら俺のほうが強いからな(フィールド効果)。たわけ。いっちょ前に裏が英語の名刺なんか作りやがって。これらのうちのいくばくかは心の中にあり、それ以外は口から外に出ていった。たまにのお出かけ、ちょっと大胆になっちゃえ。殺すぞ。 そのようにして私は統計検定1級を受験することになる。夏はもう終わっていて、バカみたいだけれど私はまだ小学校や中学校、高校の校舎の間取りを覚えていて(いま、本当に思い出せるかどうかを確かめたが、私は窓ガラスを一枚ずつ数えられるほどに覚えていた)、あした行くことになってもきっとうまくやれるだろうと思っている。いつも何人かの自分が重なっているように思えてしまう。受験料は1万6000円。そして次の物品を買う。
| 買ったもの | 価格 | リンク | なぜ買ったか | 買うべきか |
|---|---|---|---|---|
| 過去問 | 3300円 | ここ | 買わなくてもいい | |
| シャープペンシル | 1320円 | グラフ | 買わなくてもいい | |
| 消しゴム | 77円 | MONO | 買わなくてもいい | |
| 電卓 | 994円 | MW-12A-N | 買わなくてもいい | |
| 替え芯 | 220円 | アイン | 買わなくてもいい | |
| デュカ | 496円 | KALDI | 買ったほうがいい |
物を買うたびに思い出すのは、ほとんどすべての物が必要ないということだった。 しかし、おそらくこれは思い出さないほうがいいことだった。
デュカは千切りのキャベツ(西友で売っている)、ツナ缶(西友で売っている)と合わせて、味の素(西友で売っている)と塩をふりかけて食べた。はっきり言うが、これは私が作れる料理の中で最も美味しいものの一つだ。なぜ直訳っぽいのか? 知ったことか。
上司は統計検定1級の申込みはしたのかと聞く。私はしたと答える。そういえば、AIがどうのといった議論がこれまで出てこなかったことにいささか驚く。「今は機械が何でも答えてくれるから、統計の問題は -- 特にモデリングをした後に出てくるような、数学の問題として扱うことができるような問題は -- ほとんど意味をなさなくなっているかもしれませんね、と軽いフックを打つ。上司は私の目をじっと見つめる。へらへらとした侮蔑的な笑みが浮かぶ。お前まさかビビってるのか? ビビってるわけないだろ。そして私達のテーブルからは機械の話題が無くなる。
機械が仕事を奪うとか、機械が喜びを奪うとか、そういった類のたわごとはすべてまやかしで、なぜかというと、人間のほとんどは問題を解決したいのではなく、他人を自らの手で徹底的にやっつけたいと思っているからだ。もし仮に機械がレスバトルなどで人を徹底的にやっつけるようになっても、その使用に対して、人類の多くはあえてノーを突きつけるだろう。なぜなら、毛のない猿たちの悪意には限りがなく、やっぱりレスバトルなどで他人を自らの手で徹底的にやっつけいたいと思っているからだ。人類は救いようがないかもしれないが、それがどんな色をしていようと、少なくとも意思を捨てないで頑張っている。それは悪いことでも間違ったことでもない。
戦略
過去問を3年分眺めて見て、そしてインターネットの情報を集めるに、どうやら次のことがわかった。これらはもちろんこのページを読むようなものにとっては当然の知識だ。
- 形式的には90分の試験が2つある
- 統計検定は2つのセクションに分かれている
- 数理統計および応用統計(いろいろな統計分野がある。私は医薬生物学を選んだ)
- 各セクションでは、出題された5問の問題から3問を選んで90分で解く
- どうやら6割程度の得点を取れば合格できるようだ
- 統計検定は2つのセクションに分かれている
- 内容的には標準的な数理統計の内容にしたいということは伝わる
さて、ここからが重要なところなのだが、これらの試験は単なる検定の作業ではなく、おおむね以下のような問題形式になっている。
- 何らかのケース(事例)が与えられる。例えば何らかの未知な分布からサンプリングを行うというような算数の事例であったり、治療前後での処置群と対照群の事例であったりする
- 上記のケースを統計の問題として捉え、定式化する
- 検定や最尤推定などの統計ツールをデータに適用することで、ケースについての何らかの意思決定や判断を行う
そして、よく言われる『統計』(χ二乗検定だの、t検定だの、ベイズファクターだの)はここの3. を占めるのであって、1. 2. についてはそれらの知識がさほど必要がない。
では当然、1や2でどのような知識がいるかが気になるが、どうやら単に微分・積分をやればいいということがわかってきた。
この時点で本当に最悪の手法を考案することができる。つまり、以下に示すように、微積の部分だけで6割をもらおうという策だ。
- 与えられた5問の中から、微積の比率が大きい問題を3問選ぶ
- 3問のうち、微積の部分を解いて6割程度の得点を得る
- うかつにも私と同じ部屋に入ってきたオタクに最もフェティッシュなやり方を適用する
- そう、私は『地面師たち』を見ていた
- 実際どうなんだ? インテリジェント・サスペンス(そんなジャンルはない)のだと思っていたのだが、普通に『アウトレイジ』系列のアホバイオレンスドラマにしか思えないのだが
- 第一に(これは第二項)作業着が強すぎる
- 第二に(これは第三項)メガネの形が変すぎる
- もういいですよ
- そう、私は『地面師たち』を見ていた
参考書
そして私は算数の教科書を持ち出してきた。結局やったのは以下の2つだ。
- 解析入門
- 途中までやって微積を思い出したところでやめた
- もとより通読できるほどの頭を持っていない
- 現代数理統計学の基礎の演習問題
さて、過去の話をしよう(過去は常にいいから)。10年前、大学生は高木『解析概論』と杉浦『解析入門』のどちらかを買わざるを得なかった。賢い者は前者を買い、バカは後者を買った。どちらも買っていない文系もいた。しかし彼らは基本的に人非人扱いされていた。実際、彼らが実践女子大や跡見女子大、日本女子大はては御茶ノ水女子大の学生にどのような口調でコミュニケーションを取っていたかを見れば、彼らのランクもわかるというものだ。話がそれた。もちろん私は杉浦解析で、なぜなら私もまた馬鹿だからだ。
最近のガキどもについてはしらん。どうせGeminiやらに聞いてアクティブラーニングをして単位を取っているんだろう? 勝手にしろ。ねえGemini、ワイルシュトラウスの定理について教えて。あたぼうよ! もちろんGeminiは根気よく教えてくれるし、きっとそちらのほうが知識が定着するのだろう。しかし、正直に考えてみてほしいのだが、単調で有界な数列が収束することよりも、8月の調布駅、バカでかく冷たいロイヤルミルクティーを飲んだあのサンマルクカフェの方を私はよく覚えているし、そこでどれかを公理にして別の定理を導出していたあの感じを覚えている。わかるだろうか? あの『うなとと』の隣りにあるあのカフェのことだ。これはとても重要に思える。少なくともそれはまだ誰にも手を付けられていないからだ。ちょっとディテールを出せばいいと思ってるメロつくだのエモいだの言ってるカスどもにまだ見つかっていないからだ。何を言っているかわからないのであれば無視してくれて構わない。
そして、あらかた微積について復習したら、現代数理統計学の基礎の演習問題をなんとなく解いて、典型的な問題のパターンを頭の中に入れた。
はっきりいって、ここまで思考力は必要とされていない。単にそういう記号が出てくることを知って、シャーペンを使うことになれただけだ。ガウス積分、変数変換、連鎖律。これらは私にとっては導出方法を知っている操作でしかない。とはいえ、インターネットでは統計検定1級に思考力が必要だと喧伝されているし、実際に思考力を使うこともできるのだろう。ただ、そんなふうに『統計検定にはある程度の思考力が必要になる』と言っていたやつは、推しの声優がいて競馬場に通っている理系のオタクだった……。
おおよそ、一ヶ月くらい時間があった。1日30分から1時間くらいを勉強に当てていた。そして受験の3日前と前日に12時間ずつ記憶するべきことを記憶することに費やした。だから、私はだいたい50時間くらいを費やしたことになる。
受験会場に行く
私は東京(川崎)に住んでいるから、立川の数理統計研究所に行くことになった。
受験票を兼ねた案内ハガキには最寄り駅が書いてあったのだが、それ以降の道順が書かれていなかった。私は高松駅に佇み、それっぽい人が来るのを待った。明らかに それっぽい人 が現れ、私は彼の(もちろん男)後をついていった。彼はかなり小汚いブルーのウィンドブレーカーを着ていて、しかも青いジーンズを履いていた。髪は脂っぽく房になっていた。彼はどこも見ていないようだった。要するに彼は相当それっぽかった。私は彼を追い始めた。燈……!(失礼だと思うだろうか?)
そして私は気がつくと底冷えのする建物の中にいた。前の男が振り返って、私の身分を聞いた。私は一応の所属を名乗った。これこれこういう企業に勤めている男だと言った。彼は動かずに要件を聞いた。私は試験を受けるのだと言った。
試験なんてここではやってないと彼は言った。私はそんなはずはないと訂正した。私はそれを示す書類も持っているのだと言った。彼はゆっくり私の方に歩いてきて、今日は日曜日で、日曜日に試験がやっているわけがないだろ、と訊いてきた。私は日曜日だからこそやるのだ(さもなければ受験者たちが有給休暇を取得しないといけないから)と反駁した。
うるさいなぶん殴るぞと彼は言って、私の頬を横から殴った。私がうずくまると、彼はその後しばらく私を蹴り続けた。それはフェティッシュなやり方というよりも、単に私が動かなくなるのを待っているみたいだった。彼はあと20回蹴ると告げた。私はやめてくれと言った。試験に遅れてしまうのだと伝えた。彼はしばらく私に暴力を奮って、試験が始まるのは何時なのか尋ねた。9時だと私は答えた。彼は私の脇腹を思い切り蹴り上げて、これで10回目だと言った。
彼は去っていった。私は息が落ち着くまで待ってから、ゆっくりと立ち上がった。おそらくアドレナリンが出ていたのだろう。私はあまり痛さを感じなかった。私は建物の外に出た。それは確かに数理統計研究所ではなかった。
建物の横には何らかのモニュメントが立っていて、私は自分自身にムカついていたのでわけもわからずその写真を撮った。こういうモニュメントだ。

スマートフォンで調べて正しい場所に行った。だんだん手が震えてきて、受験室に入るときには体中がひどく傷んだ。中年の女性が「早く着席してください」と私に告げた。私は口の中に詰めた血まみれのティッシュを取り出して机においた。殺すぞババアと彼女に伝えた。これの教訓はなにか? 会場を間違えるなということだ。
そしてつつがなく試験が終わった。ラグランジュの未定乗数法を懐かしく思い出したり、ただ計算しろと書いてあるものを計算していたら90分が過ぎた。昼食のときにベンチで座っていたら、若いカップルが私の前を単に通り過ぎていった。赤池情報量に名を残す赤池弘次を称えるゲストハウスをなんとなく眺めてから会場に戻って、また計算しろと書かれていることを計算していたら時間が過ぎた。どうせ6割取ればいいしな、と思っていると気がラクでいい。
はっきり言うが、私は今でもχ二乗検定はRのchisq.testを実行することであり、p-valueの解釈も受験時から全く進歩していない。単に微積分を少し思い出して、問題文をちゃんと読むようになり、問題は前提として解答できるというある種の楽観論を一時的に手に入れただけだ(改めて言っておくが、問題は解くことよりも作ることのほうが多いと気がつくとき、そして解くことのできる問題を作るのはそうではないものよりも難しいと認めるようになるときに、人生は少しだけ別の段階に入る)。
うんざりするほど長い解答用紙の回収が終わって、部屋にいた20人くらいの男たちが静かに帰っていった。私は最後に部屋を出た。エレベーターの前には二人の大学生くらいの男が立っていた。彼らは試験の感想について色々喋っていた。
彼らの話を数秒聞くだけで、彼らのどちらもどうやら間違えた解法をたどったことが私にはわかった。具体的には、彼らは失敗する確率と成功する確率を逆に受け取っていた。念の為に言っておくが、その問題は2つのパラメタθとπかなんかが存在して、前者がある集団内での事象の成功確率を、後者が別の集団内での事象の失敗確率を指していた。要するにわざと間違えやすく書かれたクソ問だった。
エレベーターが来なかったので、彼らが間違えていることを私は彼らに伝えた。彼らは私のことを眺めた。一人は硬そうな髪の毛を短く刈っていて、もう一人は猫毛のやぼったい前髪をしていた。どちらも眼鏡をかけていて、ブルーアーカイブをやってそうだった。彼らはその場で試験問題を出して、たしかにそうだと言った。私達の間に気まずい沈黙が流れた。ひどすぎるクソ問だと私は言った。そのとおりだと彼らは答えた。そしてエレベーターが来た。ごとごとした古いクリーム色のエレベーターだった。
私達は乗り込んだ。誰も行き先階(すなわち1階)のボタンを押さなかった。そのせいで、エレベータの扉が2回開いて、そのたびに閉じた。私が一階のボタンを押そうとすると、短髪のほうが私の指を遮った。どういうことか聞こうと聞く前に、彼は私の耳を平手で叩いた。ざらっとしたフェルト地の壁にもたれかかったが、もう一人の学生も私のことを殴ってきた。私は腕で頭を覆ったが、彼はその上から単に殴りつけていた。何度か脇腹を蹴られて、私は冷たい床にうずくまって丸くなった。重力がどちらかにかかったのだけれど、どうやら彼らは上の階のボタンを押したらしかった。
しばらく彼らは私をいたぶっていたが、蹴るのに疲れたようだった。一階のドアが開いて彼らが帰っていった。私はエレベーターからはいでて、エントランスホールに置いてあった腐りかけたソファで休憩した。色んな場所に染みがあって、肘掛けのスポンジは劣化してぼろぼろと崩れた。
どこかの年老いた外国人の研究者がバカでかいスーツケースを引きながら私の前を通った。しばらくすると彼が引き返してきた。そして、要するにこの建物の出入り口はどこにあるのかと訊いた。そんなものはないと私は答えた。彼は明らかにバカにしながら、「ではお前はどっから来たんだよ」という趣旨のことを言った。あなたと同じところから入ってきたんだと私は答えた。彼は苛ついたようにスーツケースを私の方に引いてきた。出入り口はどこにあるんだと彼は訊いた。彼は年老いていて、弱そうに見えた。こんなときあなたならどうする。