別の世界の衣
別の世界の衣
二月に実家に数日帰った。もちろんやることがないので、近所の公園のベンチに座ったり、駅前を散歩したりする。昔の居酒屋がなくなり、マンションが駐車場になる。雪が街の隅で溶けている。毎年、山梨には一度だけ雪が降り、それが溶けると春になる。空気の匂いが変わり、菜の花が武田通りを埋め尽くす。
甲府駅のヨドバシカメラを物色していたら、小学校のときの知り合いに声をかけられた。彼女は小林という名前だった。結婚して近所に住んでいるのだと言った。彼女からしてみると、私はあまり変わっていないらしかった。確かに私は変わっていないような気がした。明日、中学校に行くことになっても大丈夫だと私は言った。数学のワークを忘れているから杉山先生に怒られると思うけど。
私の曖昧な冗談が原因かは分からないが、小林は昔のことを思い出して、いくつか私に話を聞かせた。会話は過去にしか繋ぎとめておけないのだが、『別の世界の衣』というエピソードとして私は覚えておくことにした。こういう話だ。